夏の句
2023夏 卯の花や無言館に血の匂い 肩揺らしでかいリックや一年生 息ついてでかいリックや一年生 幾度も昔話や蝉生る 生き過ぎが口癖となる立夏かな 松蝉や津軽三味線よく響く 海沿いを走る電車や青嵐 ダリヤ咲く無言館には血の匂い 赤薔薇無言館には血の匂い 祇王寺へ爪先上がり若楓
近づいて金木犀と見極める 我が家は女ばかりや柏餅 水打って見知らぬ人に遠会釈 息切らしでかいリックの一年生 行く程に路地の狭まり濃紫陽花
極楽に風のありしや若楓 黄泉にての風の如しや若楓 忘れじよ勿忘草を貰いしを 乗り越しをやっと気付いて半夏生 万緑やこの世をシャイで遣り過ごす
いつまでも治らぬシャイや心太 何時までもシャイのままなりトコロテン 心地よき日々続きおり心太 うすものや膝を崩さぬ大女将
バツイチの娘の縁談や半夏生 モナリザが眼を閉じて合歓の花 立葵潔い人生を送りたし 次次に丈を伸ばして立葵 てっぺんに辿り着いたり立葵
射的屋の残る街道水を打つ 射的屋の残る街道鳳仙花 射的屋の残る街道西瓜喰う 射的屋の残る湯の街西瓜喰う 射的屋の残る湯の街梅雨兆す
射的屋の残る湯の街半夏生 青嵐新しき風運びくる 老鶯や耳傾けて小言聞く 朝刊を後ろから読む半夏生
帰省子をまず出迎える母の笑み 羅を纏い益々祖母であり 買い言葉こらえて掛けるサングラス 射的屋の残る街道半夏生 半夏生白の世界に紛れ込む
かなかなややがて紛れて樹々の中 早川の次は根府川次は夏 打ち水をしながらふっと思いごと 打ち水をしながらふとあらぬ事 海の色たちまち変わる黒揚羽
実家より元気かいかと桃届く 早川の次は根府川晩夏光
生命線辿れば其処に晩夏かな 悪友と仲直りする晩夏かな 炎天を吐いて焼酎買いに出る その話元に戻してトコロテン 狂い咲きしたるが如き夏の蝶
蝉時雨とは斯くの如きと思い知る 江ノ電で別れたあいつ晩夏光 水打って至福の時を持ちにけり 立葵事切れるまで天を指す これよりは車馬を禁ずる立葵
秋刀魚焼いて今日細君の機嫌良し かなかなや胆管結石取り除く 高階が終の住処や蝸牛 生命線つくづく辿る晩夏かな 江ノ電の信号渡る水着かな 紫陽花の濃きも薄きも雨に佇つ 多感なる黒き瞳や青き踏む 父も子も少し斜めに夏帽子 当たり前の如くに新茶届きけり 七夕や吾に秘め事三つ四つ 長梅雨や無口無骨は父譲り 半夏生もはや白黒つける時 香水の余香に悔いある別れか ででむしの半歩半歩の思案かな 青墨を更に薄めて暑気払う 床屋からシャキシャキギッチョン今日の秋 秋立つや富士は益々凛として 玉子がけご飯ですます終戦忌 指折りて余生数える炎暑かな 鎌倉に踏み切り多し晩夏光 此の道にいつ仆れても蟻の列 錠剤の七つが八つに夏終わる 頷けば頷き返し青蛙
ほとぼりのまだ冷め切らず青嵐 青嵐すいと嵯峨野を駆け巡る 迸る我と我が身に青嵐 朝顔や少年の日の大輪 かの家は男ばかりや水を打つ 水打ってひと時脳を休ませる 昭和の日未だ昭和を引きずって 気品よき紺の加減や杜若 一日は礫の如し竹の皮 一日の過ぎる速さや時計草 衣更て何時もは避ける坂登る 衣更て何時もの道も新しき 来し方をふと振り返り衣更 新しい道を選んで衣更 杖ついて人目を避けて衣更 蟻の列しんしんしんと富士に向く 蟻の列ただひたすらに富士に向く 蟻の列しんしんしんと続きけり 蟻の列日陰選んで進みけり 蟻一匹ふと止まりてつぶやけり 蟻一匹ふと止まりて何ぞ言う 今朝もまた朝顔数え登校す 朝顔の数を数えて友忍ぶ 朝顔の数を数えて母忍ぶ 朝顔の数を数えて笑顔かな 朝顔の数を数えてしたり顔 愚痴ること忘れていたり風薫る 薫風や男は言い訳なぞせぬ 初めての杖の外出風薫る 評判のパン屋行列風薫る スケッチも終わりそうなり風薫る スケッチの子の頬紅し風薫る 薫風の特に騒がし幼稚園 薫風の特に緑や幼稚園 マグダナのマリヤ佇み春憂う 下駄履いて橋を渡れば風薫る 行列の出来るパン屋や風薫る |
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2013 娘二人音沙汰鈍き端午かな 襟足の白の眩しき更衣 母の日となるといつでも畏まる 出し抜けに苦手の人に逢ひ薄暑 古茶新茶些事に拘る性抜けず 2012 二粒が佳し安曇野のサクランボ 蛍舞ふ二匹三匹まで数ふ 鏡みて父に似て来し暑さかな 行く先は故郷なりや蝸牛 神宿しいるかも知れぬ蝸牛 終電の人影薄き晩夏かな 耳掻いてなおまだ痒き晩夏かな 忘れ物確かめている晩夏かな みんみんや何時もの言葉出て来ない 懐の乾きさながら晩夏かな 爽やかや墓など要らぬと言い放つ 坊さんも列に加わる踊りかな 釣り人の釣れたるを見ぬ秋の暮 古酒交し絆益々深まりぬ 塩少し振って枝豆茹で上がる 口数の少なき人と古酒交す 2011年 御神籤は紺色と出て濃紫陽花 青竹や我より先に逝きし人 アジサイや母奔放を全うす 行く先は紫陽花の咲くあのあたり 伊豆下田五月雨れているばかりなり 二つぶが佳し安曇野のサクランボ 蛍舞ふ二匹三匹まで数ふ 鏡みて父に似て来し暑さかな 行く先は故郷なりや蝸牛 神宿しいるかも知れぬ蝸牛 葱坊主おのれの丈を知りにけり 鎌倉の牡丹とりわけ静かなり 江ノ電の駅も路線も若葉かな ゆったりと言の葉つなぎ若楓 駆けてきて駆けて行きけり五月の子 2010年 衣替え少女女になりにけり 買って出るお膳奉行や暑気払い 大女将膝を正して夏座敷 大女将膝を崩して夏座敷 紫陽花や手鞠の中に秘めしこと 向日葵や少年突如宙返り 待ち人のまだ現われぬ薄暑かな 真ん中に子を吊り初夏の若夫婦 スルリスルリ変わる話題や若葉風 2009年 手土産の色紐解けば梅雨明ける 懐かしき人に逢ひけり星祭 梅雨明や海に戻りし海の色 床の間に良寛を下げ半夏生 紫陽花の奥よりショパン流れ来し 遠吠えの頻りに続く昭和の日 囀りと瀬音の遠く近くかな 鈍行が止まれば若葉風そよぐ 近付けば近寄ってくる目高かな 夕焼やゆびきりげんまンしてバィバィ 2008年 モジリアニ観て朧夜に紛れけり 暮れなずむ虚空に垂るる鯉のぼり 電話魔の電話来る頃日の永し 遠景は爺と婆組む茶摘かな たなごころ眺めていたる遅日かな 紫陽花や別れる為に人恋す 二度までも目覚めうつろや明け易し 母と梅叩き落しし日を想う 黒南風は大海原を集めけり 半夏生お膳奉行を買って出る むらさきの短冊もあり七夕竹 老鶯や閉ざれしままの長屋門 鎌倉の水色深し梅雨深し 空蝉をつまんで募る慈悲心 2007年 歯医者出て念力ゆるむ炎暑かな 老鶯や安土小谷に城は無し 梅雨明や野良猫仔猫連れで来る 炎天を蟲好かぬ奴やって来る 水打てばつと紅顔の郵便夫 茶の畝の一徹までの静かかな 廃嫡をして幾歳や蝦蟇蛙 逝く春ややや右向いて眠る癖 新樹新樹どこもかしこも新樹新樹 開宴の挨拶長き薄暑かな たっぷりと墨濃くしたる夏書かな 2006年 楚々と来てクルクル回る日傘かな 甚平を着れば男に戻りけり このあたり古墳の跡や梅雨深々 端居してもの見えぬもの見ていたり 水打って向う三軒両隣 十薬やこのごろ嵩む負けの数 蚕豆を食めば漂う母の味 太宰忌や晩年過ごす家捜す 病状は如何と問ひて夏帽子 一族の途絶えしあたり蛍舞う 一窓は富士一窓は柿若葉 竹売りの次は砥ぎ屋や傘雨の忌 諍いのほつれぬままに更衣 あちこちへハミングこぼし青き踏む 2005年 思い切り薄墨にして半夏生 貧相も人相のうち半夏生 鷲掴みしてみたくなり雲の峰 梅雨深し寡黙の男なお寡黙 咲き際も散り際もよき牡丹かな 叔母が来て叔父の事など若葉風 紅花の咲く頃人と別れけり 奥陸奥の風に従う植田かな 奥陸奥の懐深き青田かな 圧巻は焼筍や旅果てる 奥陸奥の青葉殊更青きかな 人呼んでいたるが如き河鹿かな 飲み疲れ語り疲れて河鹿かな 陸奥新緑ますます判官びいきなり 我が家には跡取り居るぞ鯉幟 薫風やコトコトコトと万歩計 惜春や電話にコイン落ちる音 橋渡るとき遠足の列縮む 行く春や源氏絵巻は玻璃の中 我が影の薄さを踏んで春惜しむ 2004年 夏料理京には京の流儀あり 夕焼けも小焼けもありし縁かな いっときは天下取りたり三尺寝 香水の漂う人を振り返る 風鈴の一つが鳴れば全部鳴る 垣根よりぬっと入りたる裸かな 空言の底は些細や水中花 ところてん薮から棒に本題ぞ 夏座敷はなし途切れて風動く 眦を裂いて西日に向かいけり 葛餅の黄粉にややの塩加減 諍いも中途半端や心太 尺蠖は八方睨み一歩出る 心病む人と座したる暑さかな 妻語り夫頷く桜桃忌 夏簾上げて碁敵侵入す 正直に馬鹿が付きけり蝸牛 巣立ちした後は雨風吹くばかり その後の便りは途絶え梅雨に入る 入梅の後も先にも飯を食う 足摺も室戸も霞む遍路かな 尺獲や平均年齢伸び止まず 衣更えて行き先告げず旅に出る 鎌倉の尼僧小走る薄暑かな 浅草の路地にて迷う傘雨の忌 見上げたる孫の背丈や柏餅 読みさしの本積み上がる薄暑かな ほろ甘きあとほろ苦き新茶かな 読みさしの本溜まりたる薄暑かな 日一日鳥の巣を観るつつがかな 老舗閉じ行き交う人は衣更 母の日の母の軽さを偲びけり 燃え出ずる青葉若葉や古戦場 真実は一つなりけり桐の花 2003年 老鶯や文字の掠れし道しるべ 梅雨晴れの海に海色戻りけり 世事疎き身にも世事あり昼寝覚む 水打って成さねばならぬ事も無し 居住まいの父に似てくる端居かな 罌粟坊主むかし毒舌なりしかな ひゃっくりの止まらぬままに梅雨に入る 尺獲や年金暮らし恙無し すっと出ぬ挨拶言葉蟻の列 衣更えて他人の顔になりにけり 鞦韆の空に近づくとき跳ねる 母の日やカーネーションを抱く茶髪 てにをはの一つ拘る立夏かな 2002年以前 父の日の事には触れず電話来る 十薬やしかと身に付く怠け癖 へぼ将棋一進一退明け易し 葉桜や今日二つ目の忘れ物 熱帯魚ひらりと見せる腹の底 植木屋が天に物言う立夏かな 釣銭の一つをこぼす炎暑かな キャンプ場の匂いいっぱい持ち帰る 炎天や髭ぼうぼうの男くる 蟻の列昔百姓一葵あり 母の味する空豆の届きけり のめりこむことも無くなり桜桃忌 大西日赤信号の続きおり 青柿や丹波笹山丹波焼 青梅雨や銭出して買う猫の餌 水打ちし格好のまま遠会釈 打ち水や男盛りをやや過ぎて 竹落ち葉かさりと人の匂いする 竹落葉耳掻棒の見つからず 竹落葉悲しきことは母の老い 田草取る男とりわけ静かなり 懐かしき顔の会いけり葱坊主 母の日や一日植木の手入れする エンパイヤーステイトビル霧霧霧 ニューヨークの夕焼さびし過ぎるかな 葉桜やつくづく白きなまこ壁 尺獲りや諍いもなし財もなし 穀象を真中に置きて世界地図 十薬や器を知りて恙なし |