冬の句 | |
昨日今日続く別れや紅葉散る どの葉にも物語あり紅葉散る 懐かしき人に逢いたや紅葉散る ふと触れし手の温もりや一葉忌 音消して閉める襖や一葉忌
冬日和カレーライスの舌ごこち 元旦や心耕す如く居る 木も森も山もカラスも眠りけり 今そこに綿虫のいて遠ざかる また一つ減りたる賀状天仰ぐ
谷向こうより泳いできたる除夜の鐘 右左ザクリザクリと霜柱 拙さは今更のこと書初める 侘助の一輪残る想いごと 忽然と鏡の中に雪女郎
故里に父母居らず山眠る 街人も田舎っぺいも初詣 木も森も林も山も眠りけり 手袋の片方失せて去年今年 薄氷を割ったその手で頬被う
あそこにもここにも仄か冬木の芽 あちこちにむっくりふっくり冬木の芽 麦踏んで大きく背伸びして欠伸 落ち葉踏む音の途絶えてあとしじま
落ち葉踏む音の残りし記憶かな 落ち葉踏む音の残りししじまかな. そちこちにむっくりふっくり冬木の芽 美しき箸づかいなり女正月 風花がソナタの如く舞にけり
山茶花や転校生でありし頃 初時雨いつしか風の木に化けて 粛々と墨の香漂う賀状来る 黒豆の艶びかりしてはや三日 書初めはまず王羲之の臨書なり 歌留多とり母の得意は恋の歌 年賀状だけの付き合い幾星霜 路地裏のケンケン遊び一葉忌 口重き人と言われて落葉踏む 石庭の石数えれば冴え返る 湯豆腐のあと石庭に座り込む 薄氷を踏み潰してぞプーチン来 よもとばり枯野ゆく我一人 寒も我も気付かぬうちに明けにけり 水鳥舞う彼方薬師寺東塔 コロナ禍の中寒風に立ち向かう 三密を収めんとする冬落暉 三密の普段となりて春隣 心にもあらで寡黙な七日かな トンネルを潜り抜ければ鳰 一人酒飲むほど菊の白きかな 春隣結んで開いて赤子の手 春隣つけば弾ける赤子の頬 山茶花の紅白粋を競ひ合ふ 一升瓶下げて悪友年新た 幸せは闇に残りて帰り花 煮立つほどに目の色変わる河豚雑炊 水音の方を見やれば雪女 一線を画すごとくに春の雷 コロナ禍に心無しかに山眠る 初孫や探し当てたる蕗の薹 彼の世より訪れしごと天狼よ 白鳥はみな同じ方を目指しけり 長旅は昔話や帰り花
何時になく人恋しくて懐手 下萌や結んで開いて赤子の手 体温計おでこではかり初詣 病窓の向かう大島冬ぬくし 亀なくや仕舞い込みたる胸の奥 三日はやつい出てしまうへらず口 喪の席を出でて佇む枯木中 新年やぽっくりむっくり赤子の手 うかうかとあわあわあわと三日かな 三日はや爪切る妻の恙無し 人日や面会謝絶の妻であり ひたすらに神頼みして七日かな 風花やまだ見えぬ我の捨てどころ 滅相なコロナコロナや豆を撒く 衣摺れの気配の辺り雪女郎 煮立つほど座の騒めけり河豚雑炊 身繕いして白鳥の飛び立てり カレンダー捲り忘れて二月かな 貝寄風やハープ奏でるシューベルト 風花や我が行く末の見え隠れ 程々はどのあたりやら安吾の忌 初時雨よく笑う膝なりけり つくづくと蜜柑の丸み眺めおり 熱燗がありて永らふこの世かな 谷越えて里に紛れる初時雨 2020冬 どの隅も追い詰められて隙間風 福耳の役者にわかに懐手 天狼や男寡黙を通しけり 他人事にあらず我にも返り花 きっとある何の世に恋も雪女郎 雲に穴火玉の落ちて年用意 野良猫のめっきり減って落葉掃く どの峰も古道のありて冬紅葉 津軽弁飛び交ひ雪の列車かな 紅色の益々冴えて冬紅葉 友一人欠けたる知らせ初時雨 何処までも追い掛けてくる隙間風 高階に上り詰めたる冬の蝶 嚏して我が半生を吐き出だす 何処までも追い詰めてくる隙間風 あれこれと愚痴の漏れくる師走かな 待望の旅諦める炬燵かな 天狼や男黙してなほ寡黙 青鷺も猫も佇み寒に入る 初旅やまず駅弁を買い込んで 父母も其処に居るよな追儺かな やんぬるかまたも小吉初詣 やんぬるか小吉と出る初詣 初湯してますます頭空っぽに 木の根道辿りて来たる淑気かな 玉砂利の行き止まりなる淑気かな 回廊のマリアの像や淑気みつ 鴨川の交わる辺り淑気みつ 湯河原の楠の神木淑気みつ 七度目の干支を迎えし初景色 元旦の元気元気の笑顔かな 買初めはAIスピーカーなりしかも お手製の門松なれど誇らしや 幾つかの門松過ぎり海に出る 門松の角を曲がりて海に出る これからも妻と間を置く去年今年 去年今年逞しき根にて御神木 元旦やまず富士を見て海を見て 木の根道辿り貴船の淑気かな 竹寺の竹の間の間の淑気かな 門松の角を曲がれば大鳥居 去年今年付かず離れず暮らしおり その人の名が出てこない神の留守 懐手してなお握り拳なり 着膨れて妻に物言う愚痴一つ 今さっき窓に映るは雪女 今さっき窓を覗くは雪女 着膨れて昭和時代の居候 天狼と孫に指差す爺やかな 着膨れて吐く薀蓄と愚痴ばかり 咳一つ彼とはもう会えぬかも 着膨れてすっと青春遠ざかる 咳一つもう会えぬかも知れぬ奴 せせらぎに聞き耳立てて懐手 忘れたきこと無くは無し懐手 2019年 いち早く立冬既に過ぎんとす そそくさと立冬我を素通りす 咲き初める山茶花既に零れけり 次々に話題が飛んで冬ぬくし 立冬やお客まばらな書道展 雪解富士眺め弱音を吐き捨てる 衣擦れの音かと紛ふ落ち葉踏む 雪解富士望み弱音を吐き捨てる 熱燗や話し上手な人と居て 大寒や未だ世間に疎きまま 風花や幼友達また減りて 落ち葉踏む音響く少年らし 落ち葉踏む響く音少年らし 落ち葉踏む少年らしき音響く 2018年 言の葉を確と繋いで去年今年 傷ついたたった一言虎落笛 冬天へ棟上げ棟梁仁王立ち 庭石も苔も息づく時雨かな 古希も過ぎ傘寿も過ぎて枯野行く 息白し何時もの小川流れよし 白息を吐き愚痴も吐く夜道かな 其処にある母の笑顔や返り花 返り花奥信濃からメールくる 正月の一番風呂の有難や 肩書きを忘れましたと懐手 去年今年忘れ上手になりにけり 浮かび来る母の笑顔や返り花 おでんでんでん大ボラ吹く男 偏屈と言われて余生寒卵 湯煙の中に手招く雪女郎 書に飽いてチャンバラを観る二月かな 暮らし向き常と変わらず日脚伸ぶ 冬ざれや秘めたることの一つあり 2017 落葉踏むだんだん口の重くなり あれこれとやり残したる師走かな 新宿を斜めに歩く師走かな 道端の地蔵が動く師走かな 透き通る静寂の中落葉踏む 野良猫は野良猫の面漱石忌 霜月の語り部語る民話かな 三日はや取越し苦労重ねけり 初詣礼して投げる五円玉 春水に浸せば吉や貴船道 注連飾り月に近づく星一つ 爺婆も猫もごろりや寝正月 数え日や白き土塀の喫茶店 行く年や幸も不孝も横並び 正月や今年もお神籤末吉だい 寄せ鍋をつつき気ごごろ通じ合ふ 数え日や一軒残るまなこ壁 虎落笛月に近づく星一つ 人恋し山茶花垣に沿ひて行く 掛け軸に喫茶去とあり春隣 吾も猫もとろりとろりや漱石忌 前略とありて敬具や帰り花 あくまでも無口で通す枯れ野かな 隣人は絵本作家や冬温し だんだんと父に似て来て日向ぼこ 落葉踏むベートーベンの小径かな 2016 神木に額摺り寄せて初詣 冬蝶の辺り益々静まれり 祇王寺の丸窓あたり冬紅葉 母の忌の母を想える寒さかな 初時雨程よく道を濡らしけり 旅人の佇む辺り木守柿 乳飲み子のほっぺ真っ赤や春隣 意のままにならぬ足腰春浅し 新聞を斜め読みして春近し 生命線小指で辿り寒明ける 2015 新米を朝餉にしたる至福かな 朝市の声よく通り鰯雲 路地曲がり路地曲がり来て秋の海 愚痴一つ聞いて貰うや秋の風 秋刀魚焼く匂い漂い幸せだなあ 決めること多くなりたり懐手 此処だけの話長引く日向ぼこ 旅人が仰ぎ見ている木守柿 乳飲み子のほっぺ真っ赤や春隣 仮名多き牧水の軸春浅し 2014 寒卵誰にでも来る明日かな 立春や父に似てきし喉仏 針供養何時も姉には苛められ 義仲忌や加賀野に多き石仏 春雨や橋は四条か三条か 八の字に茅の輪潜りて恙無し 神木に触れ良きことや初詣 初旅は冥土土産となりぬらむ 石仏の片目毀れて冴え渡る 火の国の骨まで熱き初湯かな 来信に耳そば立てる小春かな 道一本貫いている枯野かな マスクして世間話に耳澄ます 初月の門まで送り握手して 霜月や龍太の事をふと想う 2013 寒卵時計止まりてまた動く 耳たぼの霜焼け痒き日和かな 春寒や路上芸人つととちる 立春や常より浅きたなごころ どう見ても喧嘩腰なり猫の恋 想い出を蔵出ししたり去年今年 初鶏を幽か遥かに聞き及ぶ 初烏一声ありであとしじま 時刻む速さに惑う七日かな 書初めは常より太き筆で書く 寄せ鍋を囲み碁敵恋敵 カレンダーっくり捲り十二月 師走路を博徒のごとく人分ける 艶少し残していたり枯芙蓉 クリスマス巷々の音の色 2012 不器用な母でありけり針供養 寒木瓜の目立たぬ様に目立ちけり 梅見して竹馬の友とはぐれけり ゴミ捨ての行きも帰りも春隣 歳時記の表紙の染みや春遅し 孫の背の高さに菊の枯れしかな 腹割って語る友逝く寒卵 煮凝や我が家に男筋絶えて 三日はや老眼鏡のありどころ 一月の月一月の顔をして 2011年 短日や京に西山東山 初時雨学生の押す人力車 屁理屈をまた披露して花八手 華子かも知れぬ真っ赤な毛糸玉 山眠り九十四の夢枕 寒卵だれにでも有る明日なり 寒月が鎌の如しとメール来る 日向ぼこ昔の顔に戻りけり ツンツンと来るや寄り添い寒雀 寒雷や橋の向こうにまた橋が 団欒を解きたる後の淑気かな 元旦や東に一歩二歩三歩 憎らしきこともありけり蕪汁 独り言言うこと増えて去年今年 爪の艶光らせて剥く蜜柑かな 2010年 横文字の車内広告暮れ易し いとおしやおちばにのこるうすみどり 冬ざれや犬の居ぬ犬小屋の穴 雲千切れ千切れに裂けて冬の雷 老いらくの恋や消え入る虎落笛 今年去年太宰治を読み直す 三日はや人恋しくて爪を切る 息溜めて一気呵成や筆初め 鈍行が箱根駅伝追越した 二日はや富士の裾野に煙立つ 2009年 どの人も人追い越してゆく師走かな 名月の丸ければ犬遠吠えす 恋すてふ奏でる如く落葉踏む 一枚の落葉の如く眠りたし 饒舌な人の隣や日短か 夭折の文士あまたやダリヤ開く 寒月を上り下りに別れけり 火口まで枯野の続くばかりなり あと幾度正月来るや豆を喰う ややもして遠くて近き時雨かな 風と来て風と消えたり除夜の鐘 正月の輪をくぐり抜けつつがなし 弓抱いて乙女ら冬の橋渡る 2008年 箸の位置元に戻して三日かな 侘助の二輪向き合う日和かな 男坂肩で登れば寒椿 我が影の伸び切る辺り寒雀 安曇野の蕎麦が旨しと初便り 落葉踏み益々募る無口かな 野放図に生き永らえて帰り花 人声の途切れ途切れて冬野かな 熱燗や大法螺吹きの大鼾 朴落葉しみじみ肩の力抜く 2007年 向い家のむすめ亀飼う師走かな 水涸れて男一升下げて来る 冬立ちて水美しくなりにけり 懐手今日の日暮れのはやきこと 悪しき過去吾にもありて虎落笛 深爪のチクチク痛む神の留守 前世は風かも知れぬ枯尾花 此処だけの話長引く冬日和 蟇塚の笹の葉擦れや冬立ちぬ 石蕗咲いて木漏れ日和になりにけり 龍の玉探し当てたる好き日かな まず飲み会を記しにけり初暦 期外収縮言語障害隙間風 墨の香の漂う賀状届きけり 車椅子の友を訪ねる二日かな 2006年 着膨れてポンと腹打つしじまかな 熱燗を空けて大股男坂 中年の頃が懐かし冬紅葉 狐火や昨日あやつの噂聞く 熱々のおでんでんでん長生きしょ 初時雨村も港も沈みけり 湯豆腐や未だ明かさぬ嘘一つ 良寛の偽物らしや神無月 幾度も頭かしげる蜻蛉かな 義理一つ二つを欠いて残る虫 仲見世の大提灯や初燈 東雲の割れめを割し初日かな 去年今年流れるままに流れけり 鴉二羽寒夕焼けを戻りけり 黒富士の襞滾りたる淑気かな 2005年 鳰くるり尻出してから潜りけり 駅員は駅長だけじゃ木守柿 名匠の絵皿の如し柿落葉 飛石を千鳥に残す落葉かな 肝心なことは濁らし鮟鱇鍋 芦ノ湖に海賊船や神無月 立冬の血圧計の上下かな 我が恋の如きに釣瓶落としかな 渋柿や道しるべたつ村境 富有柿や昔榮えし宿場町 逆光を背に背に木の芽木の芽かな 初午や紅き物より箸つつく 優しきは梅の蕾の固さなり 厨よりトトントントン春立てり 息ついて吹いて窓拭く二月かな 初空やまず確かめる富士の山 元日や子に譲るもの何もなし 書初は墨たっぷりとまず点だ 外孫と背比べしたる三日かな 侘助の咲くともなしに咲きにけり 2004年 何事も腹に収めて山眠る 山茶花や今日一日もつつがなし 丸顔の町内会長冬温し 河豚鍋を突く不倫をせし如く 短日やまた三叉路に行き当る 行き行きて三叉路にでし寒さかな 寒茜こくこく富士の色変わる 大根を抜く度上がる大歓声 葱一把だけぶら下げて家路かな 短日やコトコトコトと夕陽落つ 能面の如き顔来る寒さかな 思い出し笑いの後のくさめかな 笹鳴きや苔に隠れし句碑の文字 笹鳴きのあたり残して暮れにけり 万両のたわわなりけり猫昇天 冬座敷猫死に場所を探しおり 買物をあれこれ済ませ日を数ふ 坊ちゃんと呼ばれてみたや漱石忌 病名は期外収縮日短か 2003年 故郷に母残し居る寒さかな 二重丸一つ残して古暦 出でて来ぬその一言や懐手 横顔を見らるる気配懐手 着膨れて眼鏡を探すおかしさよ 指折りて余命を数う寒さかな 母の癖思い出したる葛湯かな 異郷にて日本酒の無き寒さかな 若かりし母そこに居る葛湯かな 手招きを避けて去りけり冬の蝶 2002年以前 まだ胸に熱きものあり冬木の芽 隙間風水に流せぬ事もあり 幸せの余る刻あり日向ぼこ 廃嫡の我に墓無し冬の蜂 湯豆腐の向こうに過ぎし齢かな 天狼やますます蒼きモジリアニ 大根を斜めに切りて人思う 寒稽古する板の間に節目あり 帰り花中国残留孤児の母 隙間風無口な男となり果つる 風余るとき枯れ草さみしかりけり 初景色手の中に富士入れてみる 大落輝みて水仙の匂いかな 屠酒飲めば天下国家に言い及ぶ 子を打てぬ父になりたり冬木立 湯豆腐のあと石庭の人となる 二ン月や千鳥格子の柄流行る 年玉に父の威厳を込めにけり 落ち葉踏む音一つ減り二つ減り 寒烏や一声裂きて動かざる 寒菊や余白の多き便り受く 初冬や福井今庄おろし蕎麦 爪少し深く切りすぎ冬に入る 屋根職の声千切れ飛ぶ時雨かな 縁薄き娘の集め来し木の実かな 寄せ鍋をいろんな顔とつつきけり 小鳥来る既に番となりて来る 天狼の下にて靴の紐結ぶ 山茶花の白沈黙の午後三時 木枯や青竹売りの声途切れ あの顔のあの癖字なり年賀状 去年今年汽車に乗る人降りる人 事ありし事には触れぬ賀状かな 海原や赤道直下より賀状 初笑いして初泣きに変わりけり 妻近く遠くにありて七日かな 薄氷や捕らえて逃がす言葉尻 倒れてもなお水仙の白さかな 三日はや姿あらわす癪の種 臍繰りの乏しくなりて寒卵 寒水やごくり膨らむ咽喉仏 |