冬の句


2023年

昨日今日続く別れや紅葉散る

どの葉にも物語あり紅葉散る

懐かしき人に逢いたや紅葉散る    

ふと触れし手の温もりや一葉忌   

音消して閉める襖や一葉忌     

冬日和カレーライスの舌ごこち   

元旦や心耕す如く居る

木も森も山もカラスも眠りけり

今そこに綿虫のいて遠ざかる

また一つ減りたる賀状天仰ぐ

谷向こうより泳いできたる除夜の鐘

右左ザクリザクリと霜柱

拙さは今更のこと書初める

侘助の一輪残る想いごと

忽然と鏡の中に雪女郎      

故里に父母居らず山眠る     

街人も田舎っぺいも初詣     

木も森も林も山も眠りけり    

手袋の片方失せて去年今年  

薄氷を割ったその手で頬被う

あそこにもここにも仄か冬木の芽

あちこちにむっくりふっくり冬木の芽

麦踏んで大きく背伸びして欠伸

落ち葉踏む音の途絶えてあとしじま 

落ち葉踏む音の残りし記憶かな

落ち葉踏む音の残りししじまかな.           

そちこちにむっくりふっくり冬木の芽                    

美しき箸づかいなり女正月             

風花がソナタの如く舞にけり



2022
     

山茶花や転校生でありし頃     

初時雨いつしか風の木に化けて   

粛々と墨の香漂う賀状来る      

黒豆の艶びかりしてはや三日   

書初めはまず王羲之の臨書なり 
   

歌留多とり母の得意は恋の歌     

年賀状だけの付き合い幾星霜     

路地裏のケンケン遊び一葉忌      

口重き人と言われて落葉踏む     

石庭の石数えれば冴え返る 
      

湯豆腐のあと石庭に座り込む      

薄氷を踏み潰してぞプーチン来     

よもとばり枯野ゆく我一人

寒も我も気付かぬうちに明けにけり


2021冬

水鳥舞う彼方薬師寺東塔

コロナ禍の中寒風に立ち向かう

三密を収めんとする冬落暉

三密の普段となりて春隣

心にもあらで寡黙な七日かな

                                      

トンネルを潜り抜ければ鳰

一人酒飲むほど菊の白きかな       

春隣結んで開いて赤子の手

春隣つけば弾ける赤子の頬        

山茶花の紅白粋を競ひ合ふ

 

一升瓶下げて悪友年新た

幸せは闇に残りて帰り花

煮立つほどに目の色変わる河豚雑炊

水音の方を見やれば雪女

一線を画すごとくに春の雷

 

コロナ禍に心無しかに山眠る

初孫や探し当てたる蕗の薹

彼の世より訪れしごと天狼よ

白鳥はみな同じ方を目指しけり

長旅は昔話や帰り花


何時になく人恋しくて懐手
下萌や結んで開いて赤子の手
体温計おでこではかり初詣
病窓の向かう大島冬ぬくし
亀なくや仕舞い込みたる胸の奥

三日はやつい出てしまうへらず口
喪の席を出でて佇む枯木中
新年やぽっくりむっくり赤子の手     
うかうかとあわあわあわと三日かな  
三日はや爪切る妻の恙無し
        
人日や面会謝絶の妻であり        
ひたすらに神頼みして七日かな      
風花やまだ見えぬ我の捨てどころ
滅相なコロナコロナや豆を撒く      
衣摺れの気配の辺り雪女郎
        
煮立つほど座の騒めけり河豚雑炊     
身繕いして白鳥の飛び立てり       
カレンダー捲り忘れて二月かな      
貝寄風やハープ奏でるシューベルト    
風花や我が行く末の見え隠れ
       
程々はどのあたりやら安吾の忌      
初時雨よく笑う膝なりけり
つくづくと蜜柑の丸み眺めおり
熱燗がありて永らふこの世かな    
谷越えて里に紛れる初時雨

2020冬
どの隅も追い詰められて隙間風
福耳の役者にわかに懐手
天狼や男寡黙を通しけり
他人事にあらず我にも返り花
きっとある何の世に恋も雪女郎

雲に穴火玉の落ちて年用意
野良猫のめっきり減って落葉掃く
どの峰も古道のありて冬紅葉
津軽弁飛び交ひ雪の列車かな
紅色の益々冴えて冬紅葉

友一人欠けたる知らせ初時雨
何処までも追い掛けてくる隙間風    
高階に上り詰めたる冬の蝶       
嚏して我が半生を吐き出だす      
何処までも追い詰めてくる隙間風 
   
あれこれと愚痴の漏れくる師走かな   
待望の旅諦める炬燵かな       
天狼や男黙してなほ寡黙     
青鷺も猫も佇み寒に入る
初旅やまず駅弁を買い込んで

父母も其処に居るよな追儺かな
やんぬるかまたも小吉初詣
やんぬるか小吉と出る初詣
初湯してますます頭空っぽに
木の根道辿りて来たる淑気かな

玉砂利の行き止まりなる淑気かな
回廊のマリアの像や淑気みつ
鴨川の交わる辺り淑気みつ
湯河原の楠の神木淑気みつ
七度目の干支を迎えし初景色

元旦の元気元気の笑顔かな
買初めはAIスピーカーなりしかも
お手製の門松なれど誇らしや
幾つかの門松過ぎり海に出る
門松の角を曲がりて海に出る

これからも妻と間を置く去年今年
去年今年逞しき根にて御神木
元旦やまず富士を見て海を見て
木の根道辿り貴船の淑気かな 
竹寺の竹の間の間の淑気かな

門松の角を曲がれば大鳥居
去年今年付かず離れず暮らしおり     
その人の名が出てこない神の留守
懐手してなお握り拳なり
着膨れて妻に物言う愚痴一つ

今さっき窓に映るは雪女
今さっき窓を覗くは雪女
着膨れて昭和時代の居候
天狼と孫に指差す爺やかな
着膨れて吐く薀蓄と愚痴ばかり

咳一つ彼とはもう会えぬかも  
着膨れてすっと青春遠ざかる    
咳一つもう会えぬかも知れぬ奴 
せせらぎに聞き耳立てて懐手 
忘れたきこと無くは無し懐手


2019年
いち早く立冬既に過ぎんとす
そそくさと立冬我を素通りす
咲き初める山茶花既に零れけり
次々に話題が飛んで冬ぬくし
立冬やお客まばらな書道展

雪解富士眺め弱音を吐き捨てる
衣擦れの音かと紛ふ落ち葉踏む     
雪解富士望み弱音を吐き捨てる     
熱燗や話し上手な人と居て     
大寒や未だ世間に疎きまま 
    
風花や幼友達また減りて      
落ち葉踏む音響く少年らし
落ち葉踏む響く音少年らし
落ち葉踏む少年らしき音響く

2018年
言の葉を確と繋いで去年今年
傷ついたたった一言虎落笛
冬天へ棟上げ棟梁仁王立ち
庭石も苔も息づく時雨かな
古希も過ぎ傘寿も過ぎて枯野行く

息白し何時もの小川流れよし
白息を吐き愚痴も吐く夜道かな
其処にある母の笑顔や返り花
返り花奥信濃からメールくる
正月の一番風呂の有難や 
      
肩書きを忘れましたと懐手      
去年今年忘れ上手になりにけり    
浮かび来る母の笑顔や返り花     
おでんでんでん大ボラ吹く男     
偏屈と言われて余生寒卵

湯煙の中に手招く雪女郎
書に飽いてチャンバラを観る二月かな
暮らし向き常と変わらず日脚伸ぶ
冬ざれや秘めたることの一つあり

2017
落葉踏むだんだん口の重くなり
あれこれとやり残したる師走かな
新宿を斜めに歩く師走かな
道端の地蔵が動く師走かな
透き通る静寂の中落葉踏む

野良猫は野良猫の面漱石忌
霜月の語り部語る民話かな
三日はや取越し苦労重ねけり
初詣礼して投げる五円玉
春水に浸せば吉や貴船道

注連飾り月に近づく星一つ
爺婆も猫もごろりや寝正月
数え日や白き土塀の喫茶店
行く年や幸も不孝も横並び
正月や今年もお神籤末吉だい

寄せ鍋をつつき気ごごろ通じ合ふ
数え日や一軒残るまなこ壁
虎落笛月に近づく星一つ
人恋し山茶花垣に沿ひて行く
掛け軸に喫茶去とあり春隣

吾も猫もとろりとろりや漱石忌
前略とありて敬具や帰り花
あくまでも無口で通す枯れ野かな
隣人は絵本作家や冬温し
だんだんと父に似て来て日向ぼこ

落葉踏むベートーベンの小径かな


2016
神木に額摺り寄せて初詣        
冬蝶の辺り益々静まれり        
祇王寺の丸窓あたり冬紅葉       
母の忌の母を想える寒さかな      
初時雨程よく道を濡らしけり         

旅人の佇む辺り木守柿 
乳飲み子のほっぺ真っ赤や春隣 
意のままにならぬ足腰春浅し 
新聞を斜め読みして春近し 
生命線小指で辿り寒明ける 

2015
新米を朝餉にしたる至福かな   
朝市の声よく通り鰯雲      
路地曲がり路地曲がり来て秋の海 
愚痴一つ聞いて貰うや秋の風   
秋刀魚焼く匂い漂い幸せだなあ  

決めること多くなりたり懐手
此処だけの話長引く日向ぼこ
旅人が仰ぎ見ている木守柿
乳飲み子のほっぺ真っ赤や春隣
仮名多き牧水の軸春浅し

2014
寒卵誰にでも来る明日かな
立春や父に似てきし喉仏
針供養何時も姉には苛められ
義仲忌や加賀野に多き石仏
春雨や橋は四条か三条か

八の字に茅の輪潜りて恙無し   
神木に触れ良きことや初詣    
初旅は冥土土産となりぬらむ   
石仏の片目毀れて冴え渡る    
火の国の骨まで熱き初湯かな 

来信に耳そば立てる小春かな
道一本貫いている枯野かな
マスクして世間話に耳澄ます
初月の門まで送り握手して
霜月や龍太の事をふと想う

2013
寒卵時計止まりてまた動く   
耳たぼの霜焼け痒き日和かな   
春寒や路上芸人つととちる    
立春や常より浅きたなごころ   
どう見ても喧嘩腰なり猫の恋   

想い出を蔵出ししたり去年今年  
初鶏を幽か遥かに聞き及ぶ    
初烏一声ありであとしじま    
時刻む速さに惑う七日かな    
書初めは常より太き筆で書く   

寄せ鍋を囲み碁敵恋敵      
カレンダーっくり捲り十二月  
師走路を博徒のごとく人分ける  
艶少し残していたり枯芙蓉    
クリスマス巷々の音の色     

2012
不器用な母でありけり針供養   
寒木瓜の目立たぬ様に目立ちけり 
梅見して竹馬の友とはぐれけり  
ゴミ捨ての行きも帰りも春隣  
歳時記の表紙の染みや春遅し

孫の背の高さに菊の枯れしかな  
腹割って語る友逝く寒卵     
煮凝や我が家に男筋絶えて    
三日はや老眼鏡のありどころ   
一月の月一月の顔をして  

2011年
短日や京に西山東山       
初時雨学生の押す人力車     
屁理屈をまた披露して花八手   
華子かも知れぬ真っ赤な毛糸玉  
山眠り九十四の夢枕       

寒卵だれにでも有る明日なり   
寒月が鎌の如しとメール来る   
日向ぼこ昔の顔に戻りけり    
ツンツンと来るや寄り添い寒雀  
寒雷や橋の向こうにまた橋が    

団欒を解きたる後の淑気かな
元旦や東に一歩二歩三歩
憎らしきこともありけり蕪汁
独り言言うこと増えて去年今年
爪の艶光らせて剥く蜜柑かな



2010年
横文字の車内広告暮れ易し
いとおしやおちばにのこるうすみどり
冬ざれや犬の居ぬ犬小屋の穴
雲千切れ千切れに裂けて冬の雷
老いらくの恋や消え入る虎落笛

今年去年太宰治を読み直す         
三日はや人恋しくて爪を切る         
息溜めて一気呵成や筆初め        
鈍行が箱根駅伝追越した           
二日はや富士の裾野に煙立つ     


2009年   
どの人も人追い越してゆく師走かな      
名月の丸ければ犬遠吠えす           
恋すてふ奏でる如く落葉踏む
          
一枚の落葉の如く眠りたし            
饒舌な人の隣や日短か              
夭折の文士あまたやダリヤ開く 
寒月を上り下りに別れけり
火口まで枯野の続くばかりなり

あと幾度正月来るや豆を喰う  
ややもして遠くて近き時雨かな
風と来て風と消えたり除夜の鐘
正月の輪をくぐり抜けつつがなし
弓抱いて乙女ら冬の橋渡る    


2008年
箸の位置元に戻して三日かな 
侘助の二輪向き合う日和かな 
男坂肩で登れば寒椿
我が影の伸び切る辺り寒雀 
安曇野の蕎麦が旨しと初便り

落葉踏み益々募る無口かな
野放図に生き永らえて帰り花
人声の途切れ途切れて冬野かな
熱燗や大法螺吹きの大鼾
朴落葉しみじみ肩の力抜く

2007年
向い家のむすめ亀飼う師走かな
水涸れて男一升下げて来る   
冬立ちて水美しくなりにけり  
懐手今日の日暮れのはやきこと
悪しき過去吾にもありて虎落笛

深爪のチクチク痛む神の留守
前世は風かも知れぬ枯尾花
此処だけの話長引く冬日和
蟇塚の笹の葉擦れや冬立ちぬ
石蕗咲いて木漏れ日和になりにけり

龍の玉探し当てたる好き日かな
まず飲み会を記しにけり初暦
期外収縮言語障害隙間風
墨の香の漂う賀状届きけり
車椅子の友を訪ねる二日かな


2006年

着膨れてポンと腹打つしじまかな
熱燗を空けて大股男坂
中年の頃が懐かし冬紅葉
狐火や昨日あやつの噂聞く
熱々のおでんでんでん長生きしょ

初時雨村も港も沈みけり
湯豆腐や未だ明かさぬ嘘一つ
良寛の偽物らしや神無月
幾度も頭かしげる蜻蛉かな
義理一つ二つを欠いて残る虫

仲見世の大提灯や初燈
東雲の割れめを割し初日かな
去年今年流れるままに流れけり
鴉二羽寒夕焼けを戻りけり
黒富士の襞滾りたる淑気かな

2005年
鳰くるり尻出してから潜りけり
駅員は駅長だけじゃ木守柿
名匠の絵皿の如し柿落葉
飛石を千鳥に残す落葉かな
肝心なことは濁らし鮟鱇鍋

芦ノ湖に海賊船や神無月
立冬の血圧計の上下かな
我が恋の如きに釣瓶落としかな
渋柿や道しるべたつ村境
富有柿や昔榮えし宿場町

逆光を背に背に木の芽木の芽かな    
初午や紅き物より箸つつく       
優しきは梅の蕾の固さなり       
厨よりトトントントン春立てり     
息ついて吹いて窓拭く二月かな     

初空やまず確かめる富士の山
元日や子に譲るもの何もなし
書初は墨たっぷりとまず点だ
外孫と背比べしたる三日かな
侘助の咲くともなしに咲きにけり


2004年

何事も腹に収めて山眠る
山茶花や今日一日もつつがなし
丸顔の町内会長冬温し
河豚鍋を突く不倫をせし如く
短日やまた三叉路に行き当る

行き行きて三叉路にでし寒さかな
寒茜こくこく富士の色変わる
大根を抜く度上がる大歓声
葱一把だけぶら下げて家路かな
短日やコトコトコトと夕陽落つ

能面の如き顔来る寒さかな
思い出し笑いの後のくさめかな
笹鳴きや苔に隠れし句碑の文字
笹鳴きのあたり残して暮れにけり
万両のたわわなりけり猫昇天

冬座敷猫死に場所を探しおり
買物をあれこれ済ませ日を数ふ
坊ちゃんと呼ばれてみたや漱石忌
病名は期外収縮日短か


2003年

故郷に母残し居る寒さかな
二重丸一つ残して古暦
出でて来ぬその一言や懐手
横顔を見らるる気配懐手
着膨れて眼鏡を探すおかしさよ

指折りて余命を数う寒さかな
母の癖思い出したる葛湯かな    
異郷にて日本酒の無き寒さかな 
若かりし母そこに居る葛湯かな
手招きを避けて去りけり冬の蝶


2002年以前

まだ胸に熱きものあり冬木の芽
隙間風水に流せぬ事もあり
幸せの余る刻あり日向ぼこ
廃嫡の我に墓無し冬の蜂
湯豆腐の向こうに過ぎし齢かな

天狼やますます蒼きモジリアニ
大根を斜めに切りて人思う
寒稽古する板の間に節目あり
帰り花中国残留孤児の母
隙間風無口な男となり果つる

風余るとき枯れ草さみしかりけり
初景色手の中に富士入れてみる
大落輝みて水仙の匂いかな
屠酒飲めば天下国家に言い及ぶ
子を打てぬ父になりたり冬木立

湯豆腐のあと石庭の人となる
二ン月や千鳥格子の柄流行る
年玉に父の威厳を込めにけり
落ち葉踏む音一つ減り二つ減り
寒烏や一声裂きて動かざる

寒菊や余白の多き便り受く
初冬や福井今庄おろし蕎麦    
爪少し深く切りすぎ冬に入る   
屋根職の声千切れ飛ぶ時雨かな  
縁薄き娘の集め来し木の実かな  

寄せ鍋をいろんな顔とつつきけり  
小鳥来る既に番となりて来る    
天狼の下にて靴の紐結ぶ      
山茶花の白沈黙の午後三時     
木枯や青竹売りの声途切れ

あの顔のあの癖字なり年賀状
去年今年汽車に乗る人降りる人
事ありし事には触れぬ賀状かな
海原や赤道直下より賀状
初笑いして初泣きに変わりけり

妻近く遠くにありて七日かな
薄氷や捕らえて逃がす言葉尻
倒れてもなお水仙の白さかな   
三日はや姿あらわす癪の種    
臍繰りの乏しくなりて寒卵    

寒水やごくり膨らむ咽喉仏