2023春
白鳩が窓を横切り明けの春
天空の落人部落梅三分
おおらかな鳶の旋回梅三分
立春の空おおらかに鳶の舞
赤い実に赤い鳥来て春隣
紅は京祇王寺の落椿
蟹食って腹膨れたり多喜二の忌
水温む鴨の番が尻出して
生と死の境はいずこ春雷す
池と橋渡りて戻る梅見かな
懐かしき房州弁なり涅槃西風
天空を突き刺しており花辛夷
一片が音立てて散る花辛夷
早春や蠢くものの多くなり
頂上に荼毘の煙や山笑ふ
揚げたての公魚冥利冥利かな。
花冷えや言葉足らずは今も尚
花冷えやその一言が忘れらず
摂生ももはやこれまで花吹雪
眠ること惜しくなりたり春の月
左目を逸れる目薬明け易し
真砂女忌やl恋の真砂女は安房女
春雨や園児の傘の揺れ動き
葉桜や縁遠き子に佳き話
野も山も海も岬も春爛漫
言の葉に乗りたることも花筏
野も山も猫も子犬も春爛漫
よく喋る妻でありたり花筏
野も山も恋に溢れて山笑う
春泥や相合傘の揺れ具合
永き日や角の床屋に客一人
大仏が笑顔を漏らし春爛漫
大仏が笑みをこぼして春爛漫
春泥や相合傘のゆふらゆら
鳥雲にたちまち人の恋しくて
我が夢は夢のままなり逃水
ほろ苦き想い出のあり桜貝
花冷えやその一言を言いそびて
2022春
多感なる黒き瞳や青き踏む
当たり前の如くに新茶届きけり
何事もなきが如くに椿墜つ
あ、危ない戦車が来るぞ青蛙
麗かや空を弄る赤子の手
かの世よりお玉杓子の戻りけり
評判のパン屋の軒や初つばめ
散り散りに跳ぶ子駆ける子犬ふぐり
杖はまだ要らぬと拒み梅真白
少女らの脛の長さや風光る
海見えるところまで来て日脚伸ぶ
雛の夜や娘は海外旅行中
2021春
臨書する障子の向こう春の雷
ただならぬ障子の向こう春の雷
新品の銀のホークや風光る
母の肩叩きし記憶ごまよごし
さっと来てさっと消えけり春の雷
一湾に一瞬光り春の雷
春愁や何時もの二倍深酒す
春愁や君を思いて寝付かれず
春愁や異郷に果てし友のこと
春月や消えそうでいてまだ消えぬ
春月や雲に紛れつまだ消えぬ
男なら言い訳はせぬマスクかな
春愁や男は言い訳なぞせぬ
川筋を登れば濃くなる新緑よ
寒椿今滴りし血の匂い
どこまでも風の伴う桜かな
侘助のしっそり咲きし庭のこと
花疲れ最後かもしれぬ旅支度
たんぽぽに光集まる朝日かな
薫風や猫寄りてきて猫ジャンプ
寝付かれぬ春の宵なり悔いあまた
春爛漫子を亡くしたる人もあり
花疲れとくと鳴き出す旅の虫
葉桜や一人旅いや二人旅
葉桜やよよと泣き出す旅の虫
足裏に伝わり来たる春の音
足裏の心地良きかな青き踏む
嬰児のどこも丸くて木の芽噴く
嬰児のどこも柔らか木の芽風
嬰児のどこも柔らか桜貝
嬰児のどこも柔らか猫柳
嬰児のどこも柔らか桜餅
犬ふぐり人は心臓もて動く
立春やパン屋に並ぶ頬頬頬
一線を劃する女や猫の恋
まず母が子の背を押して漕ぐ鞦韆
独り居の多きこの頃山笑う
祇王寺の暗がりに墜つ椿かな
白蝶の戯れいしか恋いしか
柳絮飛ぶ母子の繋ぐ手の辺り
亀鳴いて身の綻びを繕えり
彼方なるファーストキッス山笑う
程々はどのあたりやら安吾の忌
立春やパン屋に並ぶ頬頬頬
一線を劃する女や猫の恋
廃校の廊下を照らし春の雷
せせらぎに沿って歩けば春の音
木の道を貴船へ抜けて木の芽和
祇王寺に女さまよい落椿
海女群れて房州訛り千切れ飛ぶ
みどり児の黒き瞳や青き踏む
母の肩叩きし記憶ごまよごし
小海線途中下車してごまよごし
嬰児のどこも柔らか桃の花
まず母が子の背を押して漕ぐ鞦韆
独り居の多きこの頃山笑う
祇王寺の暗がりに墜つ椿かな
白蝶の戯れいしか恋いしか
柳絮飛ぶ母子の繋ぐ手の辺り
亀鳴いて身の綻びを繕えり
彼方なるファーストキッス山笑う
2020春
父母も其処に居るよな追儺かな
梅の香の届くあたりに住いして
若梅も老梅も香を競いけり
別れしは枇杷の花咲くあたりなり
別れしは枇杷の花咲く頃の里
立春やまず確かめる天気予報
立春や天気予報を確かめる
児の鳴らすピアノらしきや日脚伸ぶ
山茶花と椿の違いとくと知る
万歩計万歩に遠く日脚伸ぶ
立春の窓を大きく開きけり
故郷より蜜柑と届く訃報かな
春光を浴びて鋤きこむ二人かな
名古屋には金蝦蛄ありて日脚伸ぶ
春雨に傘差し伸べて笑顔かな
春雨に傘差し伸べて微笑めり
春月や今更ながら淡い恋
振り向いて妻確かめる朧かな
何処からか誰か付き来る朧かな
何処からかなんぞ付き来る朧かな
千切れ飛ぶ房総訛り春の磯
まだそこに屯しいたる余寒かな
桜貝拾う房州あの浜辺
頼朝の潜みし穴や地虫出ず
鳶旋回山の彼方に消え行けり
山の端に鳶ゆったりと消え行けり
時折に房州訛り磯遊び
成り行きを顎で見過ごし日脚伸ぶ
さりげなく別れしあとや沈丁花
春雨や誰か何処かで泣いている
知恵の輪のなかなか抜けず地虫出ず
どこからか話捻れて日脚伸ぶ
春を行く人みんな空を向き
縄文の土器のかけらや青き踏む
遠き日をぐっと引き寄せ青き踏む
啓蟄や寝釈迦を囲む輩たち
すれ違うとき漂うは梅の香よ
書に倦いて春月望む夕べかな
異国より姉の訃報や花の冷え
久方に初音聴きしと妻笑顔
数学の快挙なりしと青き踏む
青鞜やこれ以上なく胸広げ
春愁やあえて無口は父譲り
靴脱いで靴下脱いで青き踏む
棟梁の向こう鉢巻風光る
菜の花や嫁入り船のしずしずと
野良猫の面構え良し風光る
故郷の屋号懐かし山笑う
在りし日の交換日記青き踏む
初蝶来母のごとくに胸ひろげ
野良猫の後姿や春惜しむ
秒針の一瞬止まる春の昼
逝く春や漫画の古事記読み耽る
2019年
生来の悪筆なりし葱坊主
立春の気配ありけりなまこ壁
茶柱の立つた窓辺や紅白梅
茶柱の立つた窓辺や梅香る
湯河原に残る射的屋水温む
大島がくっきり見えて春立てり
四温の陽たっぷり浴びて大欠伸
涅槃西風千手観音釈迦如
空の色山の色にも春の色
ともかくも修羅場は避けて春の蝶
囀や 畑に立ちたる老い二人
風くれば漂ってくる母の梅
つれなきはあっけなく去る春の蝶
いつからか母の猫背や針供養
あれこれとネットで購入日脚伸ぶ
腰据えて梅咲く坂を登りけり
ぶらんこや初恋の人思いけり
初恋の人は何処や桜貝
やわらかき想い出もあり桜貝
雨垂れの音確と聞く春の宵
つくしんぼう触れてみたきや赤子の手
あの白に触れてみたきや辛夷咲く
囀りのあの雄叫びはあ雄ならむ
啓蟄や縄文人弥生人
絡まりて高階覗く春の蝶
春眠や雨垂れの音確と聞く
行き戻り三椏愛でる三千院
三椏を辿りて行けば三千院
ひっそりと咲けるマンサク東慶寺
ひっそりと佇つマンサクや東慶寺
今年また同じアングル梅満開
蜘蛛の糸かすかに揺れて涅槃西風
さりげなき別れのありし桜貝
囀や立ち話する爺と婆
霾や縄文土器と弥生土器
霾や敦煌酒泉夜光杯
歩み止む箱根街道土佐水木
飄々と淡々と生きつくしんぼう
道端の馬頭観音涅槃西風
若き日のことばかりなり青き踏む
遠ざかる若き日のこと春の宵
雨垂れにしかと確かむ春の音
侘助を一本挿して一人かな
道端の三椏愛でつ三千院
流れ来る子犬のワルツ風光る
想い出をひたすら紡ぎ青き踏む
春愁や見知らぬ街を歩く癖
春の宵内緒話に花が咲く
春の宵内緒話がまだ続く
花冷えやひびの入りし丹波焼
すぐ割れる親指の爪四月馬鹿
寺町で出会う舞妓や花吹雪
疎水からとくとくとくと春の水
コーヒーに砂糖を一つ花冷える
コーヒーに砂糖を一つ目借時
コーヒーに想い出ぼろぼろ目借時
コーヒーに想い出湧けリ目借時
春を行く人みんなぱっと上向いて
ひこばえや孫に恋人できたとさ
踏青や孫に恋人できたとさ
つくつくし孫に恋人できたとさ
頼朝の潜みし窟や鳥雲に
地魚で一家団欒春の潮
逝く春や孫の望みは運転手
春雷や孫に恋人できたとさ
調律の音続きおり目借時
父からの無口を継げりつくつくし
青き踏む少女の胸の豊かかな
まだ続く内緒話や春の宵
のどけしや大島指して白い船
憂きことも華やぐことも春惜しむ
竹林を彷徨い歩き春惜しむ
鴨川につくしぼうぼう京言葉
逝く春や文を燃やせしあの記憶
蒲公英の絮飛び立ちて旅ごころ
逝く春や万年筆にインク足す
訛りには訛りで返し葱坊主
故郷の囀り聞きに海渡る
率直に話す男や葱坊主
一斉に「カシラーナカ」や葱坊主
2018年
床屋から鋏の音や目借時
地下鉄の路線図の文字鳥雲に
彼方此方にぶつけてばかり春深し
水温む鴨も小鷺も番いなり
せせらぎのコトコトコトと水温む
風花舞う鎌倉で安房高同窓会
風花舞う鎌倉卒寿同窓会
鎌倉で傘寿祝いや梅日和
鎌倉の老白梅の白きかな
さっきから逆さ睫毛や目借時
啓蟄やもぞもぞもぞとしたくなる
山門に掛かる草鞋や山笑う
時計屋の時計が止まる目借時
手招いて春満月を引き寄せる
正直と愚直と言われ春愁う
正直と愚直と言われ葱坊主
紙紐で新聞括る花の冷え
葱坊主ひそひそ話続きおり
花冷えや内緒話に声潜め
春泥を男行くあと女行く
このところ青空続き猫の恋
薄みどり深みどりあり木の芽風
花筏三々五々に別れけり
花冷えや内緒話も終わる頃
2017年
冴え返る信州上田無言館
やさしきは母の言の葉梅ふふむ
絵馬の馬飛び出しそうや梅ふふむ
梅一輪かそけく咲いていたりけり
爪立てて子猫もじゃもじゃ春立てり
まず予報観る三寒四温かな
菜の花や手を取り合える道祖神
冴え返り携帯電話のチャージする
鴨川に白鷺飛び跳ね寒明ける
大原の雪楽しめる傘寿かな
一枝一枝競う如くや梅万朶
里山は京都大原冬景色
梅一輪夫婦喧嘩を仲裁す
はにかめる夫婦道祖や梅香る
靴下の片方探す花曇り
何年も着てる背広や花の冷え
春灯や熱海湯の町坂の街
紅白の香り嗅ぎ分け観梅す
叩き合い蜆の旨さ確かめる
目刺焼く皺の増えたる古女房
大掃除逃れて旨し昼の酒
たちまちに龍になりたり春の雷
啓蟄や根も葉もなくて噂立つ
まっことに一心不乱猫の恋
釣り船のかたまる辺り春の潮
春水に雀の遊ぶにわたずみ
貝寄風やその頃おちょぼ口なりし
野も山も囁いて居り木の芽吹く
祇王寺のところせましと落椿
何と無く人恋しうて春の月
葱坊主ぶっきらぼうに並びけり
頃合を計り奏でる初音かな
鳥雲に隠れる辺り富士の影
街路路の新芽新芽のうすみどり
犬ふぐり咲いて開いてもう三日
古戦場の跡にぽつりと落ち椿
人混みを縫って桜の九段坂
咲いて散り散りては咲ける桜かな
磨崖仏覆い隠して桜かな
廃校の跡に咲きたる桜かな
月明の仄かに薫る桜かな
白木蓮雨に打たれて居たりけり
風光るまばたきばかり出る日なり
草も木も鳥も河原も水温む
祇王寺と滝口寺や花の冷え
廃校の跡の桜の散り急ぐ
触れたくもなる春月の丸さかな
触れたくもなる春月の色気かな
萩焼の猪口と徳利寒明ける
三椏の咲く道行けば三千院
花冷えや金山跡の蝋人形
お地蔵の帽子傾き寒戻る
ちょっとだけ触れてみたしや春の月
2016年
貝寄風にちちははの声紛れけり
あとさきに風付いて来る四温かな
万葉に詠まれし里や山笑う
早春の畦に寄添う地蔵かな
寒卵割ってしがらみ解きにけり
若者に席を譲られ日脚伸ぶ
啓蟄や自慢話の種尽きず
遠き日をぐっと手繰りて青き踏む
掌に陽射しを掬う春爛漫
風呂敷の藍の香りや水温む
木も鳥もここぞとばかり衣更
鳴き龍をポンと鳴かせて春惜しむ
ゆったりと言の葉つなぎ若楓
人を待つ事増えて来て街薄暑
控え目に生きて来し方衣更
春泥や庵主の語る恋遍路
あとさきに風従へて初蝶来
また一つ何か弾けて夏近し
2015年
縁切りと縁結ぶ神四月馬鹿
蓋閉じし侭のピアノや花曇り
アルバムに故人が多し花曇り
ピカソ観て喧噪に有り春の宵
花筏一つ離れて一つ寄る
いかなごが何時もの味で届きけり
トンネルを抜けるたんびの桜かな
啓蟄や後を絶たない些事大事
啓蟄や物置隅の古箪笥
だれそれにみな似てそうな雛かな
古雛に月光射して古座敷
いかなごが何時もの味で届きけり
竹林の奥に二月の風生まる
日脚のぶ卑弥呼の墓はいずこにや
何時よりか撒かなくなりし年の豆
誤字当て字多くなりたり日脚のぶ
潮の香に水仙の香の混じりけり
2014年
指揮棒を先頭にして春の風
春愁や銀白色の蝶番
貝寄風や片手はみ出す乳母車
江の電の扉開けば春の風
膝小僧丸出しにして少女東風
春昼の大天井の臥龍かな
春昼や床屋の時計時刻む
草餅は母の香りと母の味
賽銭の大きさ迷う万愚節
変換のミスばかり増え四月馬鹿
2013年
水取や鯉の如くに口開けて
春雨や音有る如く無きごとく
紫木蓮仇を討ちたき事有りて
春潮や房州白浜野島崎
春昼や三時の時報鈍く鳴る
網背負う海女上がり来て児を抱く
啓蟄の今日何時もより長湯する
いかなごやあの人のあの家の味
青鞜や明治大正昭和平成
初島の向こう大島実朝忌
春寒や路上芸人つととちる
立春や常より浅きたなごころ
どう見ても喧嘩腰なり猫の恋
2012年
啓蟄や大器晩成にて終わる
白木蓮ますます空を青くせり
フェルメールの窓辺が好きや風光る
白木蓮孔子の如き白さかな
亀鳴くや隣近所に知人無し
何時もより歩幅大きく青き踏む
犬猫も山河も人も四温かな
啓蟄や今日二つ目の忘れ物
そよと風つなぎてきたる四温かな
つくばいの音転がりて春障子
寒木瓜の目立たぬ様に目立ちけり
歳時記の表紙の染みや春遅し
ゴミ捨ての行きも帰りも春隣
梅見して竹馬の友とはぐれけり
不器用な母でありけり針供養
2011年
草餅の半分ずつのつつがかな
大試験終えし息子の鼻の穴
八幡の銀杏の辺り春の雷
紫木蓮ユダの如くに揺れにけり
喉仏鳴らし春水流し込む
行きは白帰りは紅の梅であり
雪女郎修羅場を抜けて出でしかも
梅探りがてら十郎五郎かな
悪友は痴呆で春を迎えけり
いつまでも三つ違いや雛祭り
混浴をつと抜け出して雪女郎
人も木も呟きながら四温かな
坂降りて坂登りたる梅見かな
夕暮れて陽の残りたる梅見かな
2010年
行く春や耳掻いてまだ痒き耳
行く春やまだまだ出来ぬ逆上がり
あれもこれも水に流して良寛忌
ふらここを大きく漕いで天下取る
シャッターを押して頂き風光る
花冷えや父の形見の銀時計
ふと会話途絶えてしまふ春灯
声変わりらしき少年風光る
何時からか余生となりて日脚伸ぶ
鴨一羽ひっくり返る西行忌
彼奴の名が思い出せない地虫出づ
玉響の出会いと別れ鳥雲に
意地張って痩せ我慢していぬふぐり
春風や結んで開く赤子の掌
小吉中吉大吉春が来た
天狼や首動かせば首が鳴る
吉報も訃報も届く二月かな
2009年
ランドセル跳んで跳ねたり山笑う
陽あたりを選びて桜散りにけり
佳き人と乗合いたくも花筏
待ち人のもう来る頃や花の冷
花冷や嵯峨野祇王寺吉野窓
空耳か男雛女雛の睦言か
春愁や紙人形に瞳なし
雪国の人より雪の便りあり
朧から朧へ白きうなじかな
啓蟄や今日図書館は休館日
寒月を上り下りに別れけり
擦れ違う佳き人の香と梅の香と
立春や鳶の番の大旋回
母によく似た人に会う梅見かな
2008年
水温み緋鯉ゆるりと反転す
在りし日の交換日記青き踏む
侘助は母の形見や雨上がる
畑打つ老女の背なの丸きかな
春昼や売れ残りたる丹波焼
書きさしの恋文見付け春愁う
壷焼きや江ノ島に男坂女坂
大寒やもう投げつける石が無い
節分の妻目くじらをたてており
墓碑銘にこころと有りて春浅し
二ン月になると菩薩が観たくなる
曙の妖しき月や冴え返る
2007年
みな首を傾げていたり葱坊主
木瓜咲いてやたらと疼くものもらい
春眠や時々止まる古時計
退屈の中身が違う春の宵
春寒や前屈みして歩く癖
啓蟄や世に出ぬ虫も有りぬらむ
啓蟄や日毎日毎の物忘れ
旧道を稚児行列や犬ふぐり
北面の武士にじり寄る朧かな
富士までを見渡す道や犬ふぐり
2006年
懐の奥の奥にぞ桜貝
お隣のこまめな亭主風光る
春雷や玻璃に張り付く己が影
街騒のおさまりてより虎落笛
何か良いこと有りそうな春隣
富士ばかり観てる公魚釣り師かな
あれこれと手のつかぬまま日脚のぶ
眦を立てて物問う余寒かな
2005年
耕牛を仕草で叱る農夫かな
春昼や角の床屋に客一人
貝寄風や爪透き通る薬指
踏青や靴脱いで靴下も脱ぐ
蝶々や町内会長元校長
ペチャペチャと猫が水飲む目借時
一歩二歩幼児寄り来て暖かや
涅槃西風老友自転車を買ふ
ここだけの話の弾み春炬燵
逆光を背に背に木の芽木の芽かな
初午や紅き物より箸つつく
優しきは梅の蕾の固さなり
厨よりトトントントン春立てり
息ついて吹いて窓拭く二月かな
2004年
葉も皮もあんこもよろし桜餅
人いとし人にくらしや木瓜の花
あれこれと語り尽くして朧かな
音もなく垂れ始めたる柳かな
割礼も出征もなし桃の花
げんげ田に遊ぶ童や風とまる
秘め事は胸の奥底さくら貝
大試験終わりてボール蹴りにけり
味噌汁の具は採りたての土筆なり
春昼や無理やり刻む猫の爪
タンポポの其処だけ光る日和かな
長椅子の長さ知りたり春の昼
妻の手を握るでもなし水温む
京菓子の薄紅色や春障子
諍いのわけは些細や鳥交かる
聞き流す妻の小言や水温む
嫌いとか好きとかいいて鳥交かる
木の橋をヨチヨチと来て水温む
啓蟄や思い出せない置きどころ
眦をきりりと締めてひひなさま
水草の揺らいでいたり水温む
猫が水飲む音妖し水温む
涅槃西風友自転車を買いにけり
涅槃西風老友自転車を買ふ
よちよちと橋渡り来て水温む
友来たり飯も炊けたり木の芽時
碁敵や飯も炊けたる木の芽時
日溜りに侘助朽ちていたりけり
山並みの如き年月山笑う
富士ばかり観てる公魚釣り師かな
蛇口より水ほとばしり寒明ける
膵臓に異常の便り春寒し
白波の海を見てより梅見なり
観梅やまず升酒の香りかぐ
月並みに年月重ね蜆汁
猫に紐つなぎて散歩日脚のぶ
禁煙をまた試みる余寒かな
トンネルの次もトンネル春遅し
梅見して青空ばかり見ていたり
侘助の一本咲かず仕舞いなり
針供養ますます丸き母のせな
トンネルの次は鉄橋日脚のぶ
2003年
行く春や足の痒みを足で掻く
一つづつ草の芽の名を確かむる
風船を抱きしめてより放ちけり
春灯にかかげ眼鏡を拭きにけり
奈良街道行くも帰るも馬酔木かな
髪の毛の有無が話題や風光る
棟梁の腰手拭や鳥曇
煮え滾る男料理や春浅し
戦いの始まるとぞや鳥帰る
梅一枝手折りし少女微笑みぬ
白梅の一片宙に留まりぬ
紅梅の一片頬をかすめけり
紅よりも白梅好むは母ゆずり
白梅散り頻る初キッスらし
白梅を押し花にしてつつがなり
2002年以前
刃物屋の親父丸顔風光る
春燈や丹波笹山峡の町
花冷えや旧街道の石地蔵
娘等の靴の高さや青き踏む
鎌倉をしきりに白き蝶が舞う
ひこばえや餓鬼大将の名誉傷
薄氷や郵便受に仕舞う鍵
帰り花中国残留孤児の母
隙間風無口な男となり果つる
風余るとき枯れ草さみしかりけり
初景色手の中に富士入れてみる
大落輝みて水仙の匂いかな
節分や老いて確かむ力瘤
身に詰まる話の後や鬼やらい
立春や赤多きネクタイを買ふ
マリア像微笑みおらる踏絵かな
恋猫を睨んでいたる爺やかな
足裏に届く三寒四温かな
野良猫の上目遣いや浅き春
忘れるは忘れぬ事や鳥帰る
目刺焼く妻つくづくと母似なり
畑打つ男ときおり富士仰ぐ
ものの芽のふくらみ具合触れてみる
鎌倉を歩めば一人静かな
ヴィーナスの石膏春の日に曝す
棒切れで余命を計る虚子忌かな
花屑を千鳥に踏んで奥の院
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